第一章 -1- 白い牢獄

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 柱の合間より光の差し込む神殿の廊下は、ひっそりと静まり返っていた。  小鳥の飛び立つ羽音とさえずりだけが遠く響き、それ以外の音は存在しない。  凛と張り詰めた空間に、白い何かが落とされた。静寂を引き裂くように、真っ直ぐに廊下の床へと落下する。  薄い殻に守られた丸い固形の物体が、廊下を歩いていたラキエルの後頭部に体当たりした。その衝撃に耐え切れず、強度の弱い殻が砕ける。どろりとした液体状のものが、割れた殻の隙間から零れ落ちた。支えの無い殻は中身をぶちまけた後、重力の法則に従い白い大理石の床へ墜落した。  ラキエルが己の後頭部へ手を伸ばして触れてみると、気色の悪い感触が指先に伝わる。半透明の粘着質な液体状のものは、ラキエルの漆黒の髪に纏わりつき、不快感を煽った。  間をおかず、嘲るような忍び笑いが、頭上よりラキエルの耳に届く。癇に触れるそれらに顔を顰め、ラキエルはゆっくりと天上を仰いだ。長く伸ばした黒い前髪の合間から上を見つめると、そこには笑い声の主たちがいた。 「おやおや、兎ちゃんが卵を頭に飾ってるぜ?」     
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