第二章 -7- 流れ行く者

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「ここは人の世界だぜ? 翼の生えた人間なんて、絵空物語と同じで非現実的なわけ。勿論魔術なんてもってのほか。いいか? 少しでも普通じゃない事をしてみろ、この世界では命に関わりかねない。それを肝に銘じておけよ」  お前の存在が普通じゃないとか、何かをやらかす可能性があるのはどう考えてもラグナだとか、突っ込みの言葉が脳裏に浮かんだが、ラキエルは苦言を飲み込んで冷静に返す。 「……詳しいな」 「そりゃ、仮にも女神の恩寵を頂いてる天使様だぜ? 月の光の届く範囲なら、世界中どこだって見える」  琥珀色の瞳を細め、ラグナは口元を歪めた。  サリエルとは対照的な、輝きを持つ月の瞳。それはラキエルの考える範囲を遥かに超えて、人智では計り知れない能力を秘めているらしい。月の光が届くのは、世界が闇夜に覆われた後。暗闇の世界を、人が迷わぬようにと優しく照らす琥珀色の光。  ラグナはその瞳で、人の世界を見てきたのだろうか。たくさんのものを、たくさんの人を、見てきたのだろうか。ラキエルの知らないものを、彼は多く知っている。それが少しだけ羨ましいように思えた。 「ま、そういう訳だから。連れてけ」 「どういう訳だ。それとは関係ないだろ」 「細かい事は気にすんな。女々しいぞ」 「どうしてそうなるんだ」 「オレの理論的に? 深く考えんな。あんたにオレの気高くも美しい理想と崇高なる考えが理解できるとは思えないしな」     
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