第二章 -7- 流れ行く者

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 排他的に全てを拒絶するかのような扉ばかりの家々から少し外れた場所に、仄かな光を零す門があった。緩く開かれた木製の薄汚れた扉。そこにかけられた看板には、少しばかり砕けた文字で「宿」と簡素に綴られていた。仄かに香る酒気が酒場を兼ねた宿だという事を表す。けれど酒場や宿というものを正確に理解していないラキエルは、どうするべきか戸惑う。  宿の意味が分からないわけではない。知識として、それがどんなものであるかは知っている。けれど、そこでどうすれば良いのか。どんなに知識を絞っても、応用までは浮かばない。  しかし、じっとしているわけにもいかない。  応急手当などは神殿の課外科目として、気休め程度のものだが少しは噛んだ。だが、ラグナの脇腹の傷は、ラキエルの手に負えるものではなかった。矢傷ではない。もしも矢であったなら、まだ良かったのかもしれない。しかし、肉を抉り貫通したそれは人差し指が入りそうな風穴をぶち明けていた。どくり、と心臓を巡るたびに滴る赤。失われていく指先の力。ぐったりと意識を手放した彼の顔色は、お世辞にも良いとは言えない。  恐らくは魔術による攻撃を受けたのだろう。  大怪我を負っていたにもかかわらず、命を顧みないラグナに対し、沸き起こる感情は怒りなのか、ラキエルには分からなかった。  ただ、何も告げなかったラグナへの苛立ちばかりが積もる。     
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