第二章 -8- 辺境の村

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 死の欠片だけを降り注ぐ空に救いなどない。けれど少年に祈る以外の選択肢は無かった。祈り続けて奇跡を待つか、祈り続けて死を待つか。  あまりにも残酷な現実の世界で、少年は母だけを求めた。他に求めるものを、少年は知らない。たった一人の家族を失い、孤独に震え、明日への希望も持たず、悲しみだけが少年のすべてだった。  少年を横目で見つめる大人たちは、憐れみの視線だけを向けても、少年を救う言葉を持たない。少年を生かす責任を持たない。もとより、ドルミーレの村はとても貧しく、誰もが日々の生活で手一杯なのだ。食い扶ちを増やす子供を引き取れる余裕のある者など、数える程度しかいない。しかし現実は非情なもので、少年を救うだけの力を持つ者は、少年へ向ける同情心を持ち合わせてはいなかった。  凍えるほどに冷たいこの場所で、少年は愛を知らずに果てるのだろうか。  誰もが少年に背を向ける中、雪道を小走りに走る小さな影があった。迷い無く真っ直ぐに少年のもとへと駆けて行くのは、少年とそう年の変わらない少女だった。灰色の毛皮の外套に身を包み、豊かな黄金の巻き毛には、水晶の散りばめられた髪飾りをさしている。一目で裕福な家庭の娘だとわかる身なりで、彼女は空を凝視している少年の前まで辿り着いた。  乱れた髪も、荒い息も整えぬまま、少女は少年に歩み寄る。     
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