第二章 -8- 辺境の村

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 そして何のためらいも無く、冷たく凍えた身体を抱きとめた。 「ローティア!」  少女はローティアと呼んだ少年の身体を、少しでも温めてやろうと覆いかぶさるように強く抱きしめた。腕の中に納まったローティアの身体は、空から注ぐ雪のように、酷く凍てついていた。 「おばさまが亡くなられたと聞いたわ」  今にも泣きそうな少女の声に、ローティアは反応を示す。  美しい緑柱石とも青玉石ともとれる瞳を、空から少女へと向ける。  しかしローティアは、少女に向けて薄く微笑みかけるだけで、再び空を見上げようとした。  それに気付いた少女は、ローティアの視界を遮るように身を乗り出し、彼の瞳を覗き込む。 「お願いローティア、私を見て」  ローティアの温かな海の色とは違う、清らかな空色の瞳は悲しそうにローティアを映す。彼女の瞳に薄っすらと涙が滲んでいるのを見て、ローティアはようやく口を開いた。 「シシリア、ここはとても寒いよ。君は帰らなきゃ。風邪引いちゃうよ」 「帰らない。あなたを一人にはしない」  逃がすまいとシシリアはローティアを抱く手に力を込める。  必死なシシリアの様子に、ローティアは振りほどく事もできずに表情を曇らせた。 「君には、帰りを待っている家族がいる」     
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