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天使たちは清廉な装いを裏切るような下卑た笑みを浮かべ、だんまりを決め込むラキエルに詰め寄る。ラキエルはそれ以上、後退しなかった。一文字にきつく唇を閉じ、僅かに眉宇を潜め、四人を威嚇するように見上げる。
その反応が面白くなかったのか、一人の天使が翼を羽ばたいて浮き上がり、ラキエルを見下ろした。ゆっくりとした動作でラキエルの目前まで迫る。
「神殿で問題起こすと、一年の刑罰を科せられるらしいぜ、ラキちゃん? それくらい知ってるよなぁ?」
ラキエルを馬鹿にしているという事が、その態度からひしひしと感じられる。侮蔑を含んだ冷ややかな視線。笑えない冗談や揶揄の影には、溢れんばかりの憎悪が零れている。それらはまるで、仇と対峙しているかのよう。彼らの嘲笑に隠れているのは、目に見えない刃。何かを憎む思いは鋭い剣となりて、ラキエルへ向けられる。
口は開かないと心の内で決めていたというのに、我慢できず、ラキエルは天使に言い返した。
「命を粗末にする奴らより先に、刑罰を受ける事は無いだろうな」
はっきりとそう告げ、ラキエルは髪に張り付いた小さな骸をそっと取る。
それは先ほど、ラキエルの頭に嫌がらせのために落とされ砕かれた卵。まだ鳥の姿を形成していない肉の塊が、無残にひしゃげていた。血と羊水の混じりあった液体に塗れて、生き物であったものは物言わぬ屍と成り果てている。
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