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貧しいドルミーレの街で、裕福と分類される家庭で育ち、何不自由なく生きてきた。父も母も病を患っていた事は無く、五年前、隣町まで出かける最中に夜盗に襲われるまでは元気であった。
風邪か、流行り病にでも感染したのだろうか。遠くの町の病院へと足を向けたが、医者からは至って健康だと告げられた。シシリアは安心するのと同時に、原因不明の疲労感に不安を覚えた。
シシリアと、弟のローティアだけが残された今、シシリアが倒れるわけにはいかない。
(神様、どうか……)
胸の前で手を結び、心の中で祈りを捧ぐ。何度も同じ願いを繰り返した。
突然、何の前触れも無く部屋の扉が音を鳴らした。
拳で木製の扉を叩く、乾いた音だ。控えめなそれは、誰が訪れたのか、声を聞かずともシシリアには分かった。
「姉さん、起きてる?」
十年ほど前にシシリアの家族に迎えられたローティアの声が、扉の奥から届く。
シシリアは結んだ手を解き、寝台から足を出し、部屋履きに足を滑らせた。
「ええ、今起きたところよ」
シシリアが答えると、扉は静かに開かれた。騒音を立てないようにと、細やかなところまで気を遣うローティアらしい動作だ。
部屋へと足を踏み入れた弟は、お茶と軽食を載せた丸い盆を持っていた。ポットの口からは蒸気が立ち上り、上品な紅茶の香りがふわりと部屋に広がる。
「おはよう、ローティア。よく眠れて?」
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