第二章 -8- 辺境の村

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「分かったよ。でも一つだけ約束して。……人前であの力を使わないって」  囁くような細い声で、それだけを言う。  シシリアは一瞬手を止めて、瞳を細める。 「うん。大丈夫」  指通りの良い、ローティアの白金の髪をもう一度撫ぜて、シシリアは弟を解放した。  まだ不安な色の消えないローティアに、シシリアは優しく笑いかけた。 「今日はただお手伝いするだけだから。ローティアも、勉強に励みなさいね」 「言われるまでもなくするよ。あ、食器はそのままにしておいていいから。お昼はお弁当作っておいたから、台所の台に置いてあるよ。それから……」  あれこれとシシリアの出かける準備を整えてくれていたらしいローティアに、シシリアは頬を緩ませる。本来ならば、一つ年上であるシシリアが家事をこなすべきなのに、ローティアはシシリアよりも早くに全てを済ませてしまう。これでは、どちらが上か分からないではないか。  喜ぶべきか悲しむべきか。奇妙な感覚に戸惑いながらも、シシリアはローティアの厚意を嬉しく思った。     
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