第二章 -8- 辺境の村

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 五年ほど前に母と父を同時に失い、初めて一人の寂しさを、取り残される悲しみを知った。昼夜泣き明かすシシリアの横で、ローティアはずっとシシリアを慰めようと声を掛けてくれた。当時はシシリアよりも小さかった彼は、まじないのように一つの言葉を繰り返した。 『僕がいるから、一人じゃないよ』  いつかシシリアが彼に向けて囁いたものと同じ言葉をローティアは言った。その言葉を、シシリアは今でも忘れない。  ローティアはずっと、シシリアのそばに居る。だから、シシリアもローティアと共に生きよう。ずっとずっと、世界が終わる時まで。互いを支えながら、生きていこう。  不思議と、鉛のようだった身体に生気が戻ってくるような気がした。 (――大丈夫。まだいける)  心のうちで小さく呟き、シシリアは己の両手を握った。  一日の始まりを告げる鐘の音が、教会の方より鳴り響く。  青い空に白い雲が流れて、緩やかな一日が始まろうとしていた。
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