第一章 -1- 白い牢獄

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 天使達の世界である天界に、食用の卵は無い。天使は空気中に漂う気を取り込み、力の糧とする。この神殿に限らず、天使たちは食事を取らないのだ。木の実や果実などをつまむ事はあるが、肉や卵などの他の命を犠牲にした食べ物は禁止されている。つまりこれは、自由に空を飛ぶはずだった小鳥の卵だ。神殿の庭園の木々からさらわれて来たのだろう。  哀れみと怒りを感じ、それを表すように四人をきつく見据えた。 「罰を受けるのは、おまえたちだ」  神の使いを名乗る天使が命を奪うなど、許されない事だ。  ラキエルに図星を指され、相手は気分を害したように怒りを露にする。 「言うじゃねぇか。だが、お前は自分の立場を理解して無いようだな」  指を鳴らし、天使の青年がラキエルの胸倉を掴みあげた。襟元が引っ張られ、喉が締め付けられる息苦しさに、ラキエルは顔を顰める。けれど、きつい眼差しで天使を睨みつける事は忘れない。  ラキエルの反抗的な態度が癪に障ったのか、天使の表情から余裕が消えた。眉を吊り上げ、声を荒げてラキエルに怒鳴りつける。 「呪い児の分際で、生意気なんだよ!」  握り固められた拳が振り上げられた。ラキエルは次に襲うであろう痛みを覚悟して、きつく瞳を閉じた。  静寂を引き裂いて、張り詰めた音が響く。  それは何かを殴ったような音では無く、硝子のような硬質な素材の割れる音だ。そう理解すると、ラキエルは瞳を開いた。  視界に飛び込んできたのは、色取り取りの鮮やかな硝子の欠片。粉々に砕かれ、廊下の床へと降り注ぐ。天井近くの窓より陽の光が差し込んでいた。     
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