第二章 -9- 命の巫女

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 ヴェルディス家の屋敷は、街の小高い丘の上にあり、町まで少し歩く。教会へ向かうべく、シシリアはローティアと侍女のミーナに一言断り、家を出た。心地よい朝の空気を吸い込み、歩き出そうとしたシシリアは、隣町の方角からやってくる人を見止め、足を止めた。  白い装束を纏った青年が町の方へ歩いていた。  別に、旅人など珍しいものではない。  ただ、男の様子が、どこかおかしかった。遠目にも酷く衰弱している事が分かるほど、おぼつかない足取り。身体は揺らぎ、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。前かがみになって歩いているので、はじめ老人かとも思った。だが、良く見れば青年の背にもう一人、黒い服を纏った誰かが背負われている。  シシリアは二人が近づくほどに、不自然な命の灯火を感じ取った。  まるで、いつ消えてもおかしくはない、燃え尽きる寸前の蝋燭の火のようだ。少しの衝撃で、容易く命は消えてしまう。  肌で感じた死の香りに、シシリアは鋭く反応した。  目の前で、命が散ってしまう。     
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