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シシリアは引き寄せられるように、男の方へ走り出した。教会へ持って行くはずだった見舞い品や清潔なガーゼや包帯の入った籠を地面に捨てるように投げ、加速する。男が何かに足を取られたのか、均衡を崩し前のめりに倒れた。背負っていたもう一人が、大地へと落ちて二回ほど転がり、動かなくなる。
シシリアは悲鳴を上げそうになる口を閉じて、二人のもとへと駆けつけた。倒れた青年に近寄り、恐る恐る声を掛ける。
「もし……、大丈夫ですか?」
シシリアは己の服の裾が汚れるのも構わず大地に膝を立て、倒れた青年を揺すってみた。しかし、返事は無い。
「失礼します」
小さく断りを入れて、シシリアは青年を仰向けにさせた。
黒い髪の、まだ若い男だった。顔色が悪く、唇は血の色を完全に失っている。視線を青年の身体に向けると、彼の纏う白い法衣のいたる所に、赤い色が染みていた。聖職者を思い浮かばせるような、ゆったりとした法衣は、小さな穴がいくつもあり、そこを中心に血が滲んでいた。
シシリアはそっと、青年の頬に手を伸ばした。
土気色の肌には生気がなく、指先で触れた頬は体温が低下し、呼吸も聞き取れない。けれど、命の巡る鼓動が、弱々しくも響いていた。
――生きている。
まだ間に合う。
シシリアは一瞬躊躇った。
先ほど交わした弟との約束を、違えねばならない。
しかし、失われつつある命を、見過ごすわけにもいかない。
シシリアは僅かに手を止めたが、覚悟を決めて意識を集中させた。
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