第二章 -9- 命の巫女

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 目から血が滲んでいるのかと思った。だが、朝日に照らされた透き通る紅の瞳は、間違いなく彼のものだ。兎のように、光の具合で赤く見えたわけではない。シシリアの瞳が空と同じ色であるように、彼の瞳は白い法衣に滲んだ、暗く、けれど鮮やかな血の色だった。 「ラ……グナ……」  渇いて掠れた声が、青年の唇から零れた。  深紅の瞳は、シシリアをすり抜けた先を見つめる。  シシリアはもう一人、青年に背負われていた人を思い出す。青年から少し離れた場所に転がっているのは、全身漆黒の衣に身を包んだ男だった。こちらは完全に意識を失い、瞳は固く閉ざされ、動く気配が無い。大地を通して伝わる鼓動は、酷く微弱であった。  傷口に巻かれた包帯は赤く滲み、異常なまでの出血は傷の深さを物語っていた。  シシリアはもう一度黒髪の青年に視線を戻す。  力なく横たわる青年の瞳は閉じていた。酷く衰弱している事が窺える。傷を癒しただけでは、削られた体力まで回復しない。失われた血も、シシリアの手ではどうにもならない。  一抹の不安を感じながらも、シシリアはもう一人の命を救うべく手を伸ばした。
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