第二章 -9- 命の巫女

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 不思議な事に、はちきれんばかりに膨らんだ憎悪が、急激に冷えていく。  恐る恐る、瞳に手を伸ばす。焼けるような痛みを感じていたはずの眼は、熱を持っていなかった。ゆっくりと瞼を上げる。緩い光が瞳に入り、慣れない眩しさに視界が眩む。しかし、すぐに順応してきた眼が、白い色を映し出した。  闇は無かった。天井と思わしき白い壁は、よく見れば淡色で細やかな文様が描かれている。 (見える)  視界が利くことに安心し、ラグナは息を吐いた。  首だけを動かし、己の置かれている状況を分析する。比較的広い部屋の真ん中にある寝台の上で、仰向けに寝かされていた。木漏れ日の香りがする清潔なシーツ、ベッドサイドの背の低い棚には、薔薇の花を生けた花瓶が置かれている。木の床は良く磨かれ、光を招く窓からは、良く晴れた空が見えた。白を基調にした壁に、深い色合いのダークブラウンの家具が置かれた部屋だった。  ラグナ以外に、誰も居ないようだ。  警戒心を解かないまま、ラグナは上半身を持ち上げて起き上がる。     
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