第二章 -9- 命の巫女

11/18
前へ
/314ページ
次へ
 すぐ近くに、彼の気を感じ取る。恐らく、隣の部屋だ。まだ意識は戻っていないようで、彼の気はとても微弱なものだった。  気配を探る途中、異様な気を感じ取る。人間にはあるはずのない、強い魔力の香りがした。この家の中にいる、誰かだ。  天使の気配とはまた違う――。  深く突き詰めようとしたラグナの耳に、足音が響いた。慌てて浮遊していた意識を現実に呼び戻し、己の杖を探す。武器となるものは、あれしかない。しかし、ラグナの十字の杖は、この部屋にはなかった。  警戒に身を強張らせる。  すぐに空間転移の魔術を発動できるように、毛布の中で印を結ぶ。  足音が近づく。小さな音だ。女か、子供だろうか。だが油断はできない。  構えるラグナの見据えた先で、木製の扉が軋んだ音を立てて開かれた。  ゆっくりとした動作で部屋に姿を現したのは、若い女だった。  二十歳ほどの年齢だろうか。豊かな黄金の巻き毛を背に届くほど伸ばし、若草色のゆったりとした裾の長いドレスを身に纏っている。どこか品のある優しい顔をした女だった。一つ、顔色が酷く悪いのが気になったが、もともと色白なのだろうという事で結論付けた。女は手に水差しやタオルを載せた盆を持ち、驚いたようにラグナを見つめている。  ラグナは警戒心を表面には出さず、不思議そうに女を見つめ返す振りをした。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加