第一章 -1- 白い牢獄

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 硝子の欠片が突き刺さると思い、ラキエルは再び瞳を閉じた。 「うわぁっ」  すぐ近くで、ラキエルを締め上げていた天使の、くぐもった呻き声が聞こえた。同時に、きつく掴みあげられていた襟元が解放され、ラキエルは床に背から転がった。咄嗟の事で受身もとれず、背を強く打ち付ける。痛みに驚いて瞳を開くと、嫌味ったらしい天使の頭の上に、別の天使の青年が立っていた。 「着地成功」  意気揚々と天使を踏ん付けた青年は、楽しそうな表情を浮かべている。  ラキエルや踏まれた天使とは違う、黒衣に身を包んだ天使だった。明るい栗色の髪の上に、風変わりな帽子を被っている。細身で、背はラキエルよりも低く思われた。手には装飾細やかで美しい十字を象った銀の杖を持っている。しかし彼の姿で最も目を引くのは、背から生えた翼だった。天使は二枚羽が常だ。しかし彼の翼は二枚羽の合間にもう一枚、白銀に輝く翼が存在していた。それを見止め、ラキエルは突然の訪問者が誰なのかを悟る。  悪戯好きそうな笑顔を浮かべ、黒衣の天使は踏んだ天使とは別の三人に振り返った。 「お楽しみの所悪いが、じじいが来るぜ? さっさと逃げた方がいいんじゃねぇの」     
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