第二章 -9- 命の巫女

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 むしろ、ラグナよりもシシリアの容態の方が気に掛かった。背筋を伸ばし、凛として立っているが、やはり顔色が悪い。目の下には薄っすらと隈が窺える。ゆったりとした服を纏っているので分かり辛いけれど、袖から覗く手首は、枯れ木のように細かった。美しい娘ではあるのに、病的なまでの顔色と儚げな肢体に、こちらが大丈夫かと尋ねたいくらいだ。  一つの可能性が脳裏に浮かび、ラグナは慎重に言葉を選んだ。 「傷は痛まねぇけど、少し貧血気味だな」  ラグナは己の肌の色が青白い事を自覚しているので、それを利用する手に出る。額に手を当てて、眩暈を感じたという仕草を見せ付ける。シシリアは慌ててラグナを心配そうに見つめ、ベッドサイドの水差しからコップに水を注ぎ、差し出す。 「すみません。傷は癒せても、失った血はどうにもできないんです。貴方が目を覚ましたのも、奇跡に近くて……」  蒼穹の色をした瞳が、悲しげに伏せられる。  謝る事など何もないのに、シシリアは酷く憂いを帯びた表情を浮かべていた。 (傷は癒せても、か……)  胸のうちでシシリアの言葉を繰り返し、ラグナはコップを受け取り、一口水を飲み込む。渇いていた喉が、恵みの水を受けて歓喜するが、一気に飲み込むような真似はしない。あくまでも、弱っている病人を演じなければならない。  彼女が、もう少しぼろを出すまで。 「いや、手当てをしてくれただけでも十分だ。世話になったな」     
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