第二章 -9- 命の巫女

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 何か陰謀を企てているようには全く見えない。いわゆる善人と呼ばれる類の人間だろう。彼女は警戒する範疇から消した。警戒する必要など、無いだろう。自慢ではないが、ラグナは直感で人の本質を見抜く事が出来る。ラキエルが馬鹿正直な真面目ちゃんで、実は寂しがりの甘ったれだという事も、一目で分かった。少し話してみたが、やはり間違いない。  と言っても、直感だけを頼りにしたわけではない。  彼女からは、自分と同じ力を感じる。  神々の恩寵と言う名の、異端の力――。  はっきりと口にしたわけではないが、彼女が傷を癒したと見て間違いないだろう。ラキエルを探していた時に感じた魔力も、彼女が持つ力かもしれない。今は、不思議とそんな気配を感じないが。  ラグナはしばらく考え込む振りをしてから、シシリアの申し出を受けた。 「恩に着る」 「困った時はお互い様です。……あの、私には丁度貴方達と同じくらいの弟が居るんですけど、良かったら話し相手になってくれませんか? あの子、最近部屋にこもりがちで、町の人と話さなくなっちゃって……」  引き篭もりね、実に面倒だ。などと思いつつも、口には出せずラグナは取り繕った笑顔で頷いておいた。 「オレでよければ、いくらでも」  後でその弟の相手をラキエルに押し付ければ良い。引き篭もりと根暗、案外気が合うんじゃないだろうか。ラグナとしては、面倒な事は願い下げだ。しかし、体面を保つために快諾する。邪な感情を決して外には出さないラグナに、シシリアは嬉しそうに頭を下げた。     
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