第一章 -1- 白い牢獄

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 黒衣の天使は踏みつけた天使と、背後で困惑している三人に警告する。その楽しそうな口調とは裏腹に、彼の瞳は嘲りの色を持っていた。どこか見下げたような、馬鹿にしたような雰囲気を纏っている。  ラキエルよりも遥かに生意気な態度を示した黒衣の天使は、軽い足取りでクッションにした天使より退いた。  「じじい」というのが誰の事か、ラキエルには予想できなかった。だが、ラキエルに突っかかっていた天使たちの顔色が変わった事には気付いた。 「じゃ、オレは先に逃げさせてもらうぜ」  それだけ呟き、黒衣の天使は踵を返す。そしてそのまま、瞬くような俊足を見せ、長い廊下を走り去っていった。  残された四人の天使は気まずそうに互いを見やり、こくりと頷きあう。 「ラキエル、後で覚悟してろ」  一人が捨て台詞を吐き、それを合図に彼らは庭園の方へ姿を消した。  取り残さされたラキエルは、張り巡らされたステンドグラスの窓を見上げた。色取り取りの透け硝子は美しい構成を描き、光を様々な色に変えている。しかし一箇所だけ無残に蹴り破られてしまった場所がある。恐らく、先ほどの黒衣の天使が落ちてきた場所だろう。そこをぼんやりと見つているうちに、何故四人の天使が逃げたのかを理解する。  大穴の開いた窓から、一人の老天使が顔を覗かせた。純白の長くゆったりとした法衣を纏う、白髪の天使だ。老天使は窓を観察した後、ラキエルの所へと降り立った。     
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