序章

2/12
前へ
/314ページ
次へ
「明日滅びる国の追悼をしていたのよ。ここは千の歴史を築いてきたデルフィーネ王国。ご覧の通り、今は廃墟と化してしまった」  しなやかな腕を広げ、辺りに広がる瓦礫を指す。天使は女の腕に誘われ、辺りを見回した。  そこは女の周りだけを残し、瓦礫の山と化していた。廃墟のいたるところから硝煙が昇り、むっとするほどの濃い死臭に満ちている。石の塊と化した城壁や柱には、赤い飛沫が生々しくこびり付き、女の周りには兵士だったと思われる屍が転がっていた。遠くの方では小さな子供と思わしき、生を放棄した骸が打ち捨てられていた。それは酷く凄惨な光景と言えた。  しかし、その中で女が怯えている様子は無い。手に持つ白銀の竪琴の弦に細い指を絡め、小さな響きに変えて静寂の空へ音を鳴らす。それはまるで、滅び行く王国へ送る鎮魂歌のようだ。 「何ゆえ、千の時を生き延びた国が滅びる?」  天使の男がそう尋ねると、女は僅かな沈黙を挟み、語りだした。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加