第一章 -1- 白い牢獄

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 深い皺の刻まれた老天使は、ラキエルに身体を向ける。老天使はラキエルを見つめ、視線に気付いたラキエルは老天使に向き直る。見つめた老天使は、普段ではあまり見ない険しい表情をしていた。只ならぬ事態を予想し、ラキエルは恐る恐る声をかける。 「……ディエル様?」  老天使ディエルは、この天使を育む神殿の最高責任者だ。  天使は生まれて名を授けられた後、この神殿に集められる。簡単に表現すれば、学園のようなものだ。世界の歴史や神々の偉業、哲学や古代語、そして魔術や法力、精霊学や精神学を学び、天界を支える力を蓄えるまでの間、ラキエルを含む若い天使は様々な事を学ぶ。  神殿でディエルに逆らう事は、許されない事であり、規則違反に当たる。勿論、神殿の秩序を乱す者に罰を与えるのも、この老天使の役目だ。故に、ディエルは神殿の中で恐れられている。しかしディエルも罪の無い天使を罰したりはしない。何か悪事を働いたり、争い事を起こした天使に限り罰するだけだ。真面目な天使に対しては、温厚で良い師と言えた。  そのディエルが眉間に皺を寄せ、今にも掴みかからんばかりの様子を見て、ラキエルは困惑する。身に覚えは無いが、己が何かしでかしてしまったのかもしれない。ラキエルはディエルの反応を待った。  ディエルは真っ直ぐの廊下を見渡して、ラキエルに向き直った。 「ラキエル、ラグナを見なかったか? 今、この場所を通ったと思うのだが」     
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