第一章 -1- 白い牢獄

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 ラグナとは、先ほどの黒衣の天使の事だろう。三枚羽が特徴的な彼の存在は、神殿では有名だ。ラキエルも、その姿を間近で見たのは初めてだったが、彼の事は知っている。  神殿一、いや天界切っての問題児ラグナエル。月の女神の寵愛を受けている天使。生まれて五十年ほどの天使らしいが、彼は問題ばかり起こしているため、神殿を卒業する事ができないのだと聞いた。そして彼は神殿での講義や教義を抜け出しては、好き勝手暴れまわっているらしい。ある日は神殿の祈りの間に火を放ち、ステンドグラスを片っ端から砕いたらしい。ある日は水路に毒を流し、多くの天使を寝台へ送った。最近の悪事といえば、神殿の祭壇に祭られた創世神の石像の首を落としたという事だろうか。やる事がいちいち陰湿で、それでいて神殿の者に多大な迷惑を掛けるような悪事を働くのだ。  神殿の最高責任者がラグナを追い掛け回しているのは、日常茶飯事である。ディエルの怒りが彼に向いていると分かり、ラキエルは心の内で安堵する。  ラグナは廊下を真っ直ぐ走って消えた。偶然とはいえ助けてもらった形になるラグナの行方を、ディエルに告げるべきだろうか。ディエルに逆らう気は無い。ラグナの普段の悪事を考えれば、告げ口をする方が正しい。     
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