第一章 -1- 白い牢獄

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 己が蔑まれる理由は知っていた。その理由が忌むべきものだとも理解している。だが、ラキエルにはどうする事も出来なかった。生まれながら罪の証を持つ者に、酌量の余地は無いのだ。そして、その証が一生消えない事も知っていた。 「いいえ、何も……」  告げ口をするのは簡単だ。しかし、その後の報復は速やかだろう。黙っている方が良いのだ。黙っていれば、相手もいつしか忘れるだろう。反応しなければ良い。そう心に決めて、過ごしてきたのだ。今更、真実を告げる事は出来なかった。 「……ラキエル。その小さな亡骸を、土に返してやりなさい」  ディエルはそれだけ呟き、庭園の方へ向き直り、翼を広げ広い空へと飛び立っていった。  ラキエルは老天使の姿が小さくなり、視界から消えるまで見つめた。庭園の背の高い木々に遮られ、老天使の姿が見えなくなると、ほっと溜息を吐いた。  背に隠した形を成してすらいない肉と液体の塊を、そっと持ち上げる。廊下から出て、庭園に足を踏み入れ、ラキエルは近くの大木に近寄った。その根本にしゃがみ込み、骸を芝生に置き、木の根元を掘り返す。爪の中に土が入り込んだが、気にせず掘り続けた。  そして生まれる事無く散った命を、そっと大木の根本に埋めた。 「……次の生に幸多からんことを」     
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