第一章 -1- 白い牢獄

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 神の御使いの世界で、祝福され生まれてくるはずだった小さな鳥。けれどこの世で息を吹き返す事も無く、下らない理由で命を奪われてしまった。神の御使いが命あるものを殺めるなど、どこまで愚かなのだろうか。  心の内で渦巻く怒りを抑え、ラキエルは立ち上がった。そして神殿の廊下へ戻り、その先を歩き始める。 (天界は腐り始めている)  そう思わずにはいられなかった。命を粗末にする天使。神の寵愛を受けながら、それを盾に遊びまわる天使。そして最近問題にされている、天使の中で最も祝福されていたはずの大天使の堕天。ラキエルが他の天使に嘲りの目で見られるのは、これが原因だった。  かつて、天界には一人の男がいた。真っ白い髪に、血のように紅い瞳を持ち、白き天使と呼ばれていた男だ。十二の神に愛されながら、その恩寵を跳ね除け、大地へと堕天した。他の天使たちが血眼で彼を探し出し、天界へ連れ帰ったのはそう昔の事ではない。しかし、再び天界に姿を現した彼の人は、心身共に変わり果てていた。神を激しく罵り呪い、神より与えられた巨大な力を用いて、多くの天使を虐殺した。そして彼は再び堕天した。世界の終焉を予言して、彼は姿を眩ませた。  ――この世界は次期に終焉を迎える。世界は紅く染まり、すべての命あるものは、死の祝福を受けるだろう。  白き天使はそう予言した。     
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