第一章 -1- 白い牢獄

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 この世のすべてを呪うような暗い眼差しで、数多の血を吸った唇で、狂気の言の葉だけを残した。  それらは天使上層部の者たちが見聞きした事だ。だが、いつしかそれらは様々な尾びれがついて、ある事無い事を含んだ噂として、神殿内にも届いた。  しかし、それも唯の噂では済まない状況となっていた。聞いた話でしかないが、下界――人々には人間界や地上界と呼ばれる世界――では、原因不明の天変地異が起きているらしい。巨大な嵐が通り過ぎた町は全壊し、堅牢な砦は大地震で崩れ去った。自然の驚異と取れなくも無いが、相継ぎ起きる災厄に天界の者は不振さを感じた。そして近日調べられた結果によると、それは何者かが自然バランスを崩しているせいだと判明した。自然の均衡は天使たちが管理している。その均衡が極端なまでに崩れるなど、前代未聞だ。しかし、一人だけ、それが可能な存在がいたのだ。  十二の神の恩寵を得し、白き堕天使アルヴェリア。  彼の力と、予言を考えれば、この災厄を起こしているのはアルヴェリアだと言えた。そして彼の存在が、ラキエルの心に暗く影を落とした。     
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