第一章 -1- 白い牢獄

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 廊下を進む最中、一条の光がラキエルの目をくらませた。眩い光に瞳を細め、光の飛んできた方を見やる。光は、廊下の壁に立てかけられた鏡に反射してラキエルの瞳に刺さったようだ。  見つめた先で飾り気の無い無機質な鏡が、ラキエルの仏頂面を映し出していた。天使にはあまり見られない漆黒の髪の青年が、じっと自分を見つめる。豊かな黒髪は毛先に癖があり、好きな方向へと手を伸ばしていた。無造作に伸ばされた前髪は瞳を隠すほどに長い。それを手で払い除け、ラキエルは己の瞳を見つめた。  曝け出された瞳は、血よりも紅く、紅玉よりもなお鮮やかな色彩を持っていた。かつて天界でもっとも敬われていた天使と同じ色彩が、煌々と存在を誇示している。恐らくこの世に二つと無いはずの紅の瞳。神の祝福を受けたアルヴェリアだけが持ち得たもの。それは、ラキエルの瞳にも存在していた。  誰もがラキエルの存在を疎む。  アルヴェリアが憎まれた分だけ、ラキエルに怒りの矛先が向けられた。  同じ色彩を持つラキエルに、天使たちは憎しみを抱いたのだ。  罪を犯した白き天使の証。生れ落ちた時より、ラキエルはこの紅い瞳を持っていた。ラキエルに罪は無くとも、この瞳を持つ者に罪があるのだ。  ラキエルはこの色彩を嫌っていた。     
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