第一章 -1- 白い牢獄

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 今の今まで何の気配も感じていなかった場所に、黒い外套を纏った男がいた。フードを深く被り、その顔は判別できない。だが、男を取り巻く空気の異様さに、ラキエルは一歩後ろへ退いた。  殺意も敵意も感じない。けれど、どこか冷たい気を持つ男であった。漆黒の外套は暗い雰囲気を醸し出して、男の不気味さを煽る。神殿の指導者側にも、このような装いの者はいない。神殿の者は白い法衣を纏うのが常であるので、この男は外来者という事になる。ラグナの纏う法衣は黒いが、彼は勝手に法衣を染めただけだ。そのような特殊な者以外、黒い外套を纏う者などいない。  とても天使とは思えぬその人は、ラキエルへと一歩詰め寄った。  ラキエルは警戒を解かずに、相手を真っ直ぐに見つめる。 「……ラキエルか?」  冷ややかな声は低く、不思議な威圧感を持っていた。  ラキエルは言葉で返事をせずに、不振そうな眼差しを向けて小さく頷く。 「そうか。まだ子供ではないか」  その言葉に、ラキエルは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。  ラキエルは天使としてはまだ若いが、人間で言えば成人した者と同じだけの年月を生きている。問題児ラグナのように、悪戯を繰り返す事も無いし、言動にも気をつけている。顔立ちはいくらか幼さが残るとはいえ、大人といっても差し支えないほどに成長している。  見知らぬ男に突然子供呼ばわりされるのは、実に面白くない。     
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