第三章 -13- 月の気まぐれ

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 シシリアは何も言わずにラキエルの額を見つめ、己の左肩を押さえた。彼女の紋は肩に刻まれているのだろうか。 「そう……私と同じように、痣のような紋なのね」  納得したように呟く。 「私が大地母神の恩寵を授かったのなら、ラキエルとラグナは何の恩寵を授かったの?」 「ラグナは月の女神の恩寵を授かっている……その能力については聞いていない」  月の女神が司るのは夜と闇。負の力だとされている。しかし、ラグナがその力を使ったことがあっただろうか。シシリアに問われてはじめて気にするが、ラグナは高度な魔術を操るものの、恩寵の力を使ったことはないように思う。天界から逃げる際に、ラグナの能力は戦闘向きではないとだけ言っていた気がする。  そんな事に思考が傾いていると、いつの間にかシシリアが立ち上がり、ラキエルの赤い瞳を間近で覗き込んでいた。 「ラキエルは?」  悪意のない蒼穹の瞳はすべてを見透かすように澄んでいる。  ラキエルは答えるべきか迷った。     
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