第一章 -1- 白い牢獄

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 何かを言い返そうとしたラキエルより先に、男が再び言葉を発する。 「聞け、ラキエル」  感情を押し殺したような、抑揚の無い声。  ラキエルの脳裏に、嫌な予感が過ぎる。  男は一呼吸の間を置き、感情のこもらない声で言葉を吐き出した。 「……お前の存在は、この天界の汚点となる」 「――え?」  言葉を聞き間違えただろうか。  何を言われているのか理解できず、ラキエルは困惑したように男を見つめた。 「お前は、天界のために消えなければいけない」  淡々と紡がれる言葉は非情の刃となりて、ラキエルの心に突き刺さる。 「何故……」  ラキエルが他の天使に憎まれる理由は、この瞳ゆえ。紅き瞳が、天界でもっとも重き罪を犯した天使と同じだったから、ラキエルは疎まれた。けれどそれは、ラキエルに非があったわけではない。 「お前に罪は無い。だが、お前の持つ瞳は、かつての白き天使を彷彿させる」  言われなくとも、それはラキエル自身が一番良く知っている。  今更、面と向かって事実を告げられたところで、何の驚きも無い。 「お前の存在は、天界を混乱させる。今までお前は見逃されてきたが、とうとう上が判決を下した」  一呼吸の間を置いて、男の無機質な唇が残酷な言の葉を紡ぐ。 「お前は、天界のための犠牲となるのだ」     
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