序章

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「デルフィーネは歴史深き王国。強国では無いけれど、豊かな国であった。しかし、ここ数年我が国は日照不足による不作が続き、民は飢え、栄光は音も無く去っていった。それでも、我が国には黄金を採れる鉱山がいくつもあり、この災厄の日々を乗り切るだけの有余はあった。しかし、かねてよりその黄金に目をつけた西の国の王は、デルフィーネを吸収する好機とばかりに身を乗り出してきた。欲深な西の王ゼルスは、我が国の姫君を差し出し、領地の半分と鉱山を寄越すよう要求してきた。民と王はこれを受け入れず、姫君と領地を守るため、戦へと身を投げ出した」  国同士の乗っ取り合いは珍しい話ではない。戦争など、探せば世界中どこだって起こっている。そして彼女の国は敗戦し、デルフィーネは滅びる。それだけの話だ。しかし、廃墟となったこの国が、未だ滅びていないと言いたげな女の言葉が引っかかり、男は尚も問う。 「戦に負け、国は滅びたのだろう? 何故、明日滅びると言う?」 「まだ、滅びてなどいない。ゼルスはこの国の黄金と領地の他に、国王の一人娘であった姫君を要求している。遠く流れる噂では、姫君は天上の神々に愛されし者と言われていた。その噂を聞きつけたゼルスは、何としてでも姫君を我が物にしようとしている。未だ姫君はゼルスの手中に落ちては無い。……王族の生き延びている国に滅びは来ない。だから、この国はまだ滅びぬ」     
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