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「何を……!?」
男の手が、漆黒の外套の下より現れる。純白の手袋をはめた手が、ラキエルの眼前に翳される。
反射的にラキエルはその手より逃れようと動く。腕を前に翳す構えは、何かしらの術を操る時のものだ。咄嗟に危険を察知し、ラキエルは床を蹴り、横に飛ぶ。
だが、僅かに反応が遅れ、避け切る前に、男の指先より光が放たれた。
光はラキエルの胸を貫き、通り過ぎる。血が凍りつくような感覚が全身を巡り、頭に鈍い痛みが生じた。急に全身から力が抜けて、ぐらりと視界が揺れる。ラキエルは床に手をついた。吐き気がすると同時に、強烈な睡魔が襲う。
「どうし、て……」
男は答えず、無情にラキエルを見下ろしていた。
その冷ややかな視線が、冷酷な魔物を連想させて、ラキエルは微かな恐怖を覚えた。
霞む意識の中、黒衣の男の手が伸びてくるのを見つめる。
男の腕が倒れるラキエルを受け止めたところで、ラキエルは意識を手放した。
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