第一章 -2- 救いの手

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第一章 -2- 救いの手

 薄氷の上に投げ出されたような気分だった。  冷たい床は体温を奪い、平らでないため酷く居心地が悪い。全身にしびれるような痛みを感じて、ラキエルは小さく唸った。身体が思うように動かない。意識は朦朧としていて、夢の中を漂っているような感じがした。  はっきりとしない意識の片隅で、朧げな歌が聞こえる。  優しく紡がれる声は透き通り、深く心に染み渡るような音色だった。詞までは聞き取れなかったが、繊細で美しい旋律が奏でる歌は、どこか懐かしく、耳に心地よい。  ふとラキエルの頬に、温かな何かが触れた。しっとりとした感触のそれは、優しく頬を、額を撫ぜる。不思議な事に、それが触れた所から、全身に広がっていた痛みが引いていく。冷たくなっていた指先に熱が戻り、夢心地を彷徨う意識が呼び寄せられる。  無意識のうちに、ラキエルは頬を撫ぜたものを掴んだ。  歌声が止み、代わりに小さな悲鳴が上がる。  ラキエルの知らない、女の声だった。 「……だれだ?」  ラキエルの掴み取ったものが、怯えたように震える。細く頼りなげなそれは、ラキエルの指よりすり抜けた。     
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