第一章 -2- 救いの手

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 温かな感触が去り行き、ラキエルはどこか寂しさを感じた。置いていかれるような焦燥感を覚え、手を伸ばす。だが、宙を彷徨う手は、ただ空気だけを掴んだ。柔らかな温もりを、見つける事は出来なかった。  伸ばした手を床に下ろして、ラキエルは瞳を開いた。  ぼやけた視界は次第に鮮明になり、この場所が薄暗い空間だと理解する。無機質な石で囲われた、狭い場所だった。高い天井の近くに、柵の取り付けられた窓があり、その場所から細い光が伸びている。荒削りされたような石の床はひんやりと冷たく、所々薄汚れていた。  ラキエルは身体を起こし、辺りを見まわした。  一番初めに視界に飛び込んできたのは、鉄の檻であった。窓のある石壁以外は、太い鉄の柵に囲まれている。通路を挟んだ向かい側は、ラキエルのいる場所と同じ檻が存在していた。  己の立たされている状況がつかめず、ラキエルは柵を掴み力任せに引いた。だが、鉄の檻は強固で、引いても押してもびくともしない。 「ここは……?」  何故このような場所にいるのだろうか。  訳がわからず、ラキエルは記憶の糸を辿る。  ラキエルは神殿内の祈りの間へと向かうはずだった。     
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