第一章 -2- 救いの手

4/25
前へ
/314ページ
次へ
 視線が交わり、ディエルは悲しげな表情のまま、ただ静かにラキエルを見下ろす。普段、ディエルがラキエルを見つめる視線は、どこか優しげであった。それは慈愛に満ちているようでもあり、ディエルは他の天使よりもラキエルを気にかけてくれていた。ラキエルが落ち込んでいれば、ディエルはすぐに察し、悩み事はないかと尋ねる。悩みを打ち明けた事はないが、ラキエルはディエルの心遣いに感謝してきた。  厳格で優しいこの老人を、ラキエルは好いている。ディエルがラキエルを気にかけてくれたように、ラキエルもディエルを良く見ていた。普段はいつも優しげで、白い髭に包まれた口元は見えなくとも、どこか微笑んでいるような雰囲気を持っている。  だが、今のディエルは、悲しい目をしていた。  心に不安が生まれ、ラキエルは真っ直ぐにディエルの瞳を覗いた。  静寂が満ちて、世界から音が消える。  時が止まってしまったかのように、閑散とした空気が流れた。  やがてディエルは、白く豊かな顎鬚に包まれた唇を動かした。 「天界の最高指導者フィーオ殿が、そなたの処分を決められた」  重々しく告げられた言葉は、ラキエルにとって、もっとも聞きたくない言葉であった。 「突然このような事になって、驚いているだろう……。わたしも、たった今フィーオ殿に事情を聞いたばかりだ」  再び視線を石の床に戻し、ラキエルは瞳を閉じる。 「そう、ですか……」  ラキエルにとって、こうなる日が来る事は前々から知っていた。  天使に疎まれる理由は瞳の色。けれど、天界の汚点とみなされたのは、瞳の色などではないだろう。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加