第一章 -2- 救いの手

5/25
前へ
/314ページ
次へ
 長年、ラキエルの心に巣食ってきた罪悪感の源。それは、ラキエルに死を宣告するだけの理由を持ち合わせていた。 「白き天使アルヴェリアと同じ紅を持ち、滅びの女神デラの呪いを受けしそなたは、天界に悪影響を及ぼすと判断された」  ラキエルはただ静かに、こくりと頷き、顔を上げた。  長く伸ばした前髪を手で押さえ、額を曝け出す。露になる、鮮やかな紅い瞳。その更に上には、色濃い文字にも見える、どす黒い痣が存在していた。白い額に浮かび上がる禍々しい紋様の痣は、ラキエルにとって知られたくないもう一つの秘密であった。 「……俺が、滅びの女神に選ばれたから、ですね」  ラキエルの額の痣を見つめ、ディエルは深く頷く。 「滅びの女神に選ばれし者は、まわり全てを破滅させる。かつて、滅びの紋を持っていた人間の娘がそうであったように」 「俺の他にも、この紋を持つ人が……?」  神々の恩寵は、一人の存在に与えられる。  同じ神の恩寵を、選ばれた者以外が受ける事はない。選ばれし一人が死ぬその時まで、神の恩寵は持続する。故に、今滅びの女神の恩寵を受けているのは、ラキエルだけだ。  だが、ラキエルの他にこの紋を持つ者がいたというのは初耳だった。  疑問を返すラキエルに、ディエルは静かに頷く。     
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加