第一章 -2- 救いの手

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「そう。そなたの前に、滅びの女神に選ばれてしまった哀れな娘がいた。その娘は、女神の寵愛を受けたが故に、肉親や祖国、大切なもの全てを失った。滅びの紋を持ちえし者は、まわりを全て巻き込み終焉へと導く。……それが、滅びの女神の呪いだ。……そして、いつかお前の存在が、天を滅ぼすと判断された」  神々の恩寵は、必ずしも素晴らしいものとは限らない。  神の紋は、人や天使に大いなる力を与える。それらは使い方次第で善にも悪にもなりうる。だが、神々が選ぶ者は、心清き者の場合が多い。だから、神の力が悪用される事など、あまり無いのだ。  しかし、滅びの女神の恩寵だけは違う。神々の中でもっとも不吉な役割を持つ女神デラは、選んだその者を滅びへ導く。力を与える訳でもなければ、心清き者だけを選ぶわけでもない。女神の象徴する「滅び」そのものを、選びし者へ贈るのだ。  滅びの女神に愛されし者は、遅かれ早かれ死ぬ定め。死して女神の御許へ、女神を慰めるために行くのだ。 「ラキエル。そなたに罪は無い」  掠れた声で、ディエルは呟く。  ラキエルは黙ってその声を聞いた。  紅き瞳と滅びの紋。それらは全て、ラキエルが生れ落ちた時より持っていた。生きる過程で罪を犯したのならば、それを償うのは当然だ。だが、生れ落ちた事が罪ならば、その罰は誰が受けるのだろうか。  いつかその選択を迫られる日が来る事を、ラキエルは予想していた。     
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