第一章 -2- 救いの手

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 己の額にあるものが滅びの紋と知った時より、ラキエルは答えを探し続けてきた。毎日祈りの間へ足を運び、神に啓示を求めもした。  長き葛藤の末、様々な答え、いくつもの道からラキエルが選んだのは、運命に身を委ねる道であった。  ラキエルは悲しげなディエルを覗き込んで、血の気の薄い唇を開いた。 「天使は死した後、神の御許へ還ります。それが遅いか早いか、それだけです。……それに、俺は女神の呪いが天を滅ぼす事を望みません。だからこの呪いと共に、少し早いかもしれませんが、女神の御許へ参りましょう」  天使は神の子であり、使いであり、僕だ。  望まれるのだったら、滅ぼす役割を持つ悲しい女神へ命を差し出そう。それで天界が危険に晒される事無く、女神の心も安らぐのならば、ラキエルは天命に従うまでだ。  全てを受け入れるというラキエルの答えに、ディエルは瞳を曇らせる。緩く首を振り、ディエルは腕を伸ばしてラキエルの肩を掴んだ。骨ばった指が食い込み、ラキエルは僅かに驚く。 「ラキエルよ。違う。……違うのだ。本来ならば、女神の呪いはそなたを裁く理由にはならぬ。上の者たちは、そなたをアルヴェリアとして裁きたいだけなのだ」 「――アルヴェリア? 何故、俺をアルヴェリアに?」     
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