第一章 -2- 救いの手

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 ディエルの言葉に動揺を隠せず、ラキエルは眉根を寄せる。ディエルはラキエルの疑問に答えず、ラキエルより視線を外した。 「そなたに罪は無い。そなたが受けるべき罰など、もとより何一つ無いのだ」  小刻みに震える声は今にも消え入りそうなほど小さい。それと反比例して、ラキエルの肩に乗せられた手に力が込められる。細い老人のどこにこんな力があるのだろうか。ラキエルの肩を砕かんばかりの勢いで押さえ、ディエルは首を振った。  皺の刻まれた顔には、深い翳りが落ちている。見えぬ何かと対峙しているように、ディエルの表情は険しく、骨ばった肩は震えていた。  その様に返す言葉が見つからず、ラキエルは俯く。  ディエルは何かを知っている。だが、神殿を預かる者として、ディエルは真実を告げられないのだ。軽はずみな言動の許されない立場にあるディエル。普段は落ち着いた雰囲気を持つ老天使は、今はラキエルよりも遥かに苦しんでいるように見えた。 「ディエル様」  いたたまれず、ラキエルはディエルの手をやんわりと外し、一歩後退する。 「俺はこうなる事を覚悟していた。だから、俺は自分の意思で女神の元へ行くんです。名目が何であれ……、俺は受け入れます」     
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