序章

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 デルフィーネの姫君は国を思い、何度も考え直しゼルスの元へと行こうとした。けれど、父たる王はそれを許さず、また民も姫君が失われる事を嘆いた。そして何よりも、もし姫君が暴君ゼルスの元へと行けば、彼は姫君を人質にこの国を飲み込むだろう。似たような事情で西の強国に取り込まれた国々は、あまりにも酷な政治の下、飢餓や疫病などで片っ端から滅んだと聞く。そうなれば、死より辛い苦しみと共に生きていかなくてはいけない。それでは、国に未来は無い。だから、デルフィーネは戦で物事を跳ね除けようとした。しかし結果は、デルフィーネ王国の惨敗と終わった。  戦の終わった昨夜のうちに、王と兵が殺された。今日の朝は城壁を破壊し、夕刻に差し掛かった頃、十にも満たない幼い王子達が殺された。そして先ほど、月が空高く上った頃に、国の民と城が犠牲となった。  全てが終わり残されたのは、女ただ一人。 「お前が滅びる国の姫君か?」  全てを見透かしたような眼差しで、天使は女を見つめた。女は真っ直ぐにその視線を受け止める。視線と視線が交差し、無言のまま二人は見つめ合う。  先に折れたのは、女の方だった。 「いかにも。わたくしがデルフィーネ最後の王族にして滅びの女神の愛で子、ラフィーナ」  そう言って、ラフィーナは黒いベールを剥ぎ取った。     
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