第一章 -2- 救いの手

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 落ち着かない心を宥めるだけの時間が必要であった。  死刑宣告をされたようなものなのに、不思議と恐怖は無い。  だが、何か遣り残してしまった事がある気がして、それがラキエルの心を憂鬱にさせた。ひどく落ち着かず、そわそわとして、だけどその理由が分からない。  自分の膝を抱き寄せて、ラキエルは顔を伏せた。 「――おい」  突然、ラキエルの鼓膜に声が入り込む。  ラキエルは顔を上げて、辺りを見回した。  がらりとした牢獄に人の気配は無い。背後以外の四方を見回しても、石の壁と鉄の柵しか見つける事は出来なかった。  空耳だと考え、再びラキエルはもとの体勢に戻ろうとする。 「おい。こっち向けよ」  再び発せられた声と同時に、ラキエルの頭上に固いものが落とされた。  小気味良い音が響き、ラキエルの頭部に鈍い痛みが走る。 「った!」  しゃらん、と軽い金属が擦れあうような音色が鳴る。  ラキエルが頭上を仰ぐとそこに、人の頭部よりも大きな十字架が存在しいた。それは隣の檻とを仕切る柵の奥より伸びている。光の届かないその先は、ラキエルの檻とは違いひどく暗い。視線を伸ばし、目を凝らすと、暗闇の中で青白い首が浮かんでいた。 「よぉ。さっきも会ったよな」     
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