第一章 -2- 救いの手

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 口元をにたりと笑わせて、暗闇に浮かんだ首が喋る。  暗い中で、異様なほど光を集めて輝く琥珀色の瞳が、夜空に浮かぶ月を思い浮かばせる。女性的とはまた違う端正な顔立ちはどこか子供っぽさを残して、それが生首を余計に不気味に見せた。色味の薄い唇は歪んだように微笑んでいるが、鋭く釣り上がった瞳は笑ってなどいない。一見無邪気な子供を思い起こさせるその表情は、油断のならない雰囲気を漂わせていた。  生首が動いたかと思うと、首より下の身体が闇より抜き出た。それが何も無い空間から現れ出でたかのように見え、ラキエルは驚き瞳を大きく開く。  ラキエルの頭上を彷徨っていた十字架を柵の隙間から取り戻し、男はラキエルを見下ろした。 「そんなに驚くなよ。隠れてただけなんだからさ」  暗がりより出てきたのは、黒衣の天使だった。獣の耳を思わせる尖った両方の端に十字架の飾りが付いた、黒く風変わりな帽子を被り、背より白銀に輝く三枚羽を生やした天使。ディエルに追われていたはずの、悪戯好きな天使ラグナエルがそこにいた。 「おまえは……」  ラキエルの疑問の言葉を遮り、ラグナが言葉を投げる。 「えーっと……ラキエルだっけ? ……へぇ、本当に紅い目なんだな」     
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