第一章 -2- 救いの手

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 ラキエルと同じ目線までしゃがみ込み、ラグナは無遠慮にラキエルの瞳を覗き込む。輝きを持つ琥珀色の瞳に見つめられ、ラキエルは不快そうに眉根を寄せた。 「確かに、アルヴェリアに似てない事も無い、か……」  一人ごちに呟き、ラグナは口角を上げた。 「あんたさぁ、結構有名だよな。神殿の連中があんたの噂してるの、よく聞くぜ?」  噂ではなく、陰口の間違いだろう。  深紅の瞳について悪く言う者が大勢いる事を、ラキエルは知っている。だが、あまり人との関わりを持たない問題天使が、何故その噂を知っているのだろうか。不思議にこそ思うが、あえてそれには触れず、ラキエルはラグナに負けじと言い返す。 「おまえも有名だ。月の女神に選ばれた天使ラグナエル。何故こんなところにいる?」 「言っただろ。隠れてたのさ。じじぃも最近しつこいからな。やる事たくさんあるってのに、オレばっかり追い掛け回してきやがる。ここはうってつけの隠れ場所だったんだが……」  まさかディエルも、神殿の地下にある牢獄にラグナが隠れているとは思わないだろう。滅多な事では人の寄り付かないこの場所は、ラグナにとって騒ぎをやり過ごす格好の隠れ場であった。 「黒服が来るわじじぃが来るわで、おちおち昼寝もできねぇのな」  実に面倒だと言わんばかりに、ラグナは肩を竦めて見せる。 「まあ、お陰で面白い話も聞けたけどな」     
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