第一章 -2- 救いの手

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 すうっと瞳を細めて、ラグナは笑う。心から喜んでいる笑いではなく、何か面白い玩具を見つけた子供のような笑みだ。だが、相変わらず琥珀色の瞳は欠片も笑っていない。 「……どこから聞いていたんだ?」 「最初っからさ。あんたが痛い痛いって呻いてた時から、オレはここにいたぜ?」  ふと、ラキエルは目覚める前に聞いた女の声を思い出す。  しかし意識を取り戻した時は、誰もそばにいなかった。ラグナが気配を消して隠れていたとしても、女がいた痕跡はどこにもない。あれは夢だったのだろうかと考え込み、不適に笑うラグナを見つめた。 「女の声がした。誰かいたのか?」 「さぁ。いたかもしんねぇし、いなかったかもな。夢か現か幻か――」  真剣な眼差しで問うた言葉を、ラグナは曖昧な答えで返す。  おどけた態度のラグナを、ラキエルは不愉快そうに睨みつけた。 「怖い顔すんなって。それよりもさぁ、あんた本当に死ぬ気なのか?」  ラキエルを侮蔑する天使たちとはまた違う、どこか馬鹿にしたような声色でラグナは問いかける。  恐らくラグナは先程のディエルとの会話を聞いていたのだろう。盗み聞きされていた事に怒りを覚えながら、ラキエルはこくりと頷く。  結論はもう出ているのだ。今更、答えを変える気は無い。 「へぇ。女神に呪われてるから、あんたは潔く死ぬのか。はっ、本当に迷惑な話だな、女神の恩寵も」     
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