第一章 -2- 救いの手

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 嘲るように笑い、ラグナは帽子より零れ落ちてきた鳶色の髪をかきあげた。 「……月の女神の恩寵を受けているおまえが、何でそんな事を言う?」  滅びの女神を別として、神々の恩寵は人に力を与える。魔力だったり、超人的な身体能力だったりと、神々によって様々だが、決して悪いものではない。事実、このラグナは月の女神の恩寵があったからこそ、こうして好き勝手を黙認されているのだ。これがただの問題児であったならば、今頃ディエルによって軽く十年は牢獄入りを科せられたであろう。  訝しむラキエルを一瞥して、ラグナは口を開いた。 「神々の恩寵はただの呪いさ。あんたが思ってるほど素晴らしいものなんかじゃねぇよ。まあ、月は滅びの女神に比べりゃ、少しはましかもしれないけどな」 「……」  神々すらも嘲るような物言い。  ラグナの真意が掴めず、ラキエルは黙りこくる。 「馬鹿らしいとは思わねぇの? 望んでも無い寵愛を押し付けられて、――でもまわりの奴らは女神の呪いが恐ろしいから、元凶を殺せと言う」  琥珀色の瞳で真っ直ぐにラキエルを見つめ、ラグナは一呼吸の間もおかずに言い切る。 「なのにあんたは、神様が言う事は絶対。神様は素晴らしいって?」     
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