第一章 -2- 救いの手

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 問題ばかり起こすラグナが、まともな神経では無いと分かっていたが、言葉の端々ににじみ出る不満は、憎しみの感情も存在していた。まるで、神を憎んですらいる、むき出しの敵意。それを表すような、冷ややかな瞳。  ラキエルにとって、天使とは神の僕にして神の使いだ。神は絶対であり、正しい存在だと信じている。その神々を侮辱されて、ラキエルは不愉快といわんばかりに瞳を細める。 「……神の代理であるフィーオ様の勅命だ」  フィーオとは、天界の指導者だ。  天使たちをまとめ、神託を受けてその言葉を天使に伝える、神の代理人。天使たちの中でもっとも高い位を持ち、地上と天界の管理を任されているのもこの天使だ。  先程、ディエルはフィーオがラキエルの処分を決めたと言った。それはつまり、神の判断と受け取れる。フィーオの言葉は神の声。フィーオの考えは神の意志。だからこそ、ラキエルは大人しく従ったのだ。 「ご立派だな。どうして裁かれるのかも知らないで、神の言葉には絶対服従ってわけか」  鼻で笑い、ラグナは胡坐をかいて座り込んだ。 「そんじゃ、冥土の土産に一つだけ教えてやるよ。あんたはラキエルとして裁かれるわけじゃない」  身長はラキエルの方が高いため、ラグナはラキエルを見上げる形となるのだが、その目線はどこか挑むような鋭さを帯びている。それを真っ直ぐに受け止めて、ラキエルは疑問を返す。     
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