第一章 -2- 救いの手

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「ディエル様も、そんな事を言っていた。どういう意味だ?」  鉄の柵ごしに問いかけると、ラグナは面白そうな表情を浮かべた。 「名目がなんであれ、受け入れるんじゃなかったのか?」  ラグナがわざとらしい口調で言い返してみると、ラキエルの表情が歪む。その様子を楽しんでいるようなラグナに、ラキエルは溜息をつきながら尚も食い下がった。 「自分の事だ。知っていても良いと思っただけだ」 「へぇ……まあ良いか、教えてやるよ」  十字架を象った杖をラキエルへ向けて、ラグナは一言二言呪を紡ぐ。  十字の先端に朧な光が現れ、暗闇を眩く照らし出す。光は虹彩を取り入れ、色が混ざり合い溶け合ううちに、光の中に男の顔が浮かんだ。  輝くほど白く、絹のように滑らかな長い髪が癖一つ無く額に掛かり、肩へ胸へと落ちている。彫刻に彫ったかのような美しい造形の目鼻立ち、白磁の肌。その中ではっきりと目を惹く、鮮やかな色の瞳が印象的な、ラキエルの知らない男であった。  どこかで見た事のある紅い赤い紅蓮の瞳は、真っ直ぐにラキエルを見つめている。 「まさか……」  息を呑んで、ラキエルは光に浮かび上がった男を凝視する。     
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