第一章 -2- 救いの手

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「話を変えようか。もしあんたが、誰かの『代わり』として裁かれるとしたら、甘んじてそれを受けるか? 誰かの手の上で踊らされてると知っても、それから目を逸らして死を選ぶのか?」  ラグナは杖を振るい、白い光に浮かんだアルヴェリアをかき消す。  そして先程と同じように呪を唱え、再び光に別の誰かを浮かばせる。  アルヴェリアの代わりに浮かび上がったのは、ラキエルだった。長い前髪で額と瞳を隠した、まだ幼さの残る青年が光に浮かぶ。だが、ラキエルの知る己の姿ではなかった。顔の造形は鏡に映したように同じ。けれど、額にかかる髪の色は、雪のように混じり気の無い純白に塗り潰されていた。  その姿は、どこかアルヴェリアに似ていて、ラキエル自身、妙な疑いを持ってしまうほどだ。 「何が言いたい」  ラグナの言葉の真意が掴めず、ラキエルは低く言葉を投げる。  ラグナは口角を上げて微笑み、どこか見下げたような視線をラキエルに向けた。 「あんたはアルヴェリアとして裁かれる。滅びの女神の呪いを受けた半人前の天使ラキエルとしてじゃなく、第一級犯罪人アルヴェリアとして大衆とサリエルの前で裁かれるのさ。裁かれる理由は、神を裏切った罪、そして天使殺しの罪だ」  はっきりとそう告げて、ラグナはラキエルの幻影を光と共に消した。  ラキエルはラグナから視線を外し、瞳を閉じて頭を振る。 「……戯言だ」     
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