第一章 -2- 救いの手

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 ラグナの言葉が真実であるはずない。彼への先入観から、ラキエルはラグナの言葉を否定する。ラキエルが信じるのは、天上の神々と、彼らの声を聞くフィーオだ。天界切っての問題児の言葉を信じるほど、ラキエルは愚かではない。 「そう思っても良いぜ。オレはオレの知る事を教えただけだからな。実際オレも、何であんたをアルヴェリアに見立てるなんて回りくどい事するのか、知らないしな」  ラキエルには、ラグナの言葉が真実なのか、判断しかねた。  ただ、先程のディエルとのやり取りを思い出す。  罪が無いのにと、ラキエルの為に嘆いた老天使。ラキエルよりもずっと苦しんでいた、悲しげなディエルの目が浮かび上がる。  ――上の者たちは、そなたをアルヴェリアとして裁きたいだけなのだ。  確かに、ディエルはそう言った。ラグナと同じ事を、ディエルは口走った。思わず喉を突いて出た言葉は、一体どのような意味が込められていたのだろうか。  ラキエルが裁かれる理由は、額の紋の存在故だと思っていた。滅びの紋が呼ぶ呪いは、災厄の元凶と見られても仕方が無い。更に紅い瞳がアルヴェリアを彷彿させて、天界を混乱させるという理由にも納得がいく。それらが天界の汚点として残る前に、速やかに消した方が良いというのは、仕方が無い事だと思ってきた。  だが、真実は違うのだろうか。  ラグナやディエルが言うように、ラキエルの知らない思惑が影で動いているのだろうか。     
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