第一章 -2- 救いの手

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 そしてラキエルは、それを知らぬままこの世から消えるのだろうか。 「……何が正しいかは、あんたにしか決められない。オレはあんたがどうなろうと知ったこっちゃないし、生きようが死のうがどうでもいい」  突き放すような冷たい声で、ラグナは言い切った。  行き着く先は、死。  それがラキエルの全てだった。どんな道を歩んでも、どんな道を選んでも、最後には死が待ち受けるのだと思ってきた。神の御許へ行くためというのも、結局言い訳に過ぎない。ただ、先の見えない未来がたまらなく不安で、死という逃げ道を自ら選んだ。  一人きりの寂しさに、どこか疲れていたのかもしれない。  神は敬うべき偉大な象徴だ。  けれど言ってしまえばそれだけで、ラキエルは神々がどんな存在なのかも知らない。ただ、天使として、神が創り出したこの世界に生きる者として、神々の存在を誇大評価してきた。  神の声は絶対なるもの。  神の意思は、生きとし生けるもの全ての意思。  そう考える事は、間違っていないはずだ。だが、それらを踏まえて、ラキエルの意志はどこに存在していたのだろうか。信じていれば救われると、心の奥底で思ってはいなかっただろうか。  その全てがラグナの言葉により覆されて、ラキエルはただ戸惑う。     
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