第一章 -2- 救いの手

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 女神に呪われた自分には生きる資格が無いのだと思い込み、死をも恐れず、どこか冷めた目で現実を見つめてきた。まわりの視線を気にして、感情を大っぴらに出すのも恐れた。  生きていながら死んでいるような、何の重さも無い人生。  生と死の境界線は限りなく薄く、脆い。  それでも、ラキエルは今生きている。まだ、死んでない。  死を受け入れる反面、心のどこかで遣り残した何かを探し続けている。  それが何であるのか分からないのだけれど、死を望まない気持ちが、確かに存在していた。落ち着かず、そわそわしていたのは、恐らく生への渇望だ。諦めようとするラキエルに、ほんの僅かに芽吹く生への執着。それは偽り無くラキエルの願いであった。 「――俺は、許されるのなら……生きたい」  そう、本当は生きていたい。  まだ、死にたくなど無いのだ。  許されるのならば、女神がラキエルの魂を迎えに来るその日まで、生きていたい。  押し殺してきた素直な感情を言葉にして、ラキエルは聞き取るのも困難な声で呟く。掠れた声で紡がれたそれを聞き届け、ラグナは口元を綻ばせた。 「なら生きろよ。簡単に諦めて、死を選ぶんじゃねぇよ」  上手く口車に乗せられてしまった気がしないでもない。  だが、口角を上げて笑うラグナに、邪気は感じられなかった。     
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